Miyabi Lifestyle Blog

M.P.C ~it's not fan to be life. ~

グーグルが家やエネルギーに注力する理由

今や調べものでも道案内でも、スマホに問いかければ、
アラジンの魔法のランプのようにすぐに答えてくれる。

そのうち車も家も、話しかけるまでもなく、
自ら考えて働くようになるという。

そんな近未来の住まいにスポットを当て、
幼少期は五右衛門風呂のある家で育ち、
今やスマートハウスをリードしている
村上憲郎氏に話を聞いた。


村上憲郎(むらかみ・のりお)
1947年生まれ。1970年京都大学工学部卒。日立電子、日本DECを経て、DEC米国本社人工知能技術センター勤務となり渡米。帰国後はインフォミックス、ノーザンテレコムなどの外資系IT企業の日本法人で社長を歴任。2003年からグーグル米国本社副社長兼グーグル・ジャパン社長、2008年から同社名誉会長。グーグル退職後は、村上憲郎事務所代表として経産省総務省の委員を複数兼任し、ICT政策などをサポートしている。また、2014年末に、それまで社外取締役を務めてきていたエネルギー情報会社エナリスの経営を立て直すべく代表取締役に就任した

シュミットから「スマートグリッドの推進をやってくれないか」

――そもそも、ITやコンピューターが専門だったはずの村上さんが、今や、エナリスの代表取締役を務めるなど、エネルギーやスマートハウスの専門家です。この経緯を教えてください。


村上:私は、2008年12月31日をもって、いったんグーグル米国本社副社長と日本法人社長を退任いたしました。同年8月に体調を崩して入院し、完治しない膠原(こうげん)病だと分かったからです。

約1カ月の入院後に自宅療養に入った時は、大量投与されていた副腎皮質ホルモン剤の副作用でムーンフェースになり、免疫もゼロに近い状態でした。でも、その後の経過は良く、ちょうど米国でオバマ政権が誕生した頃、グーグルCEO(現・会長)のエリック・シュミットから連絡を受けました。

「これから米国はスマートグリッドを推進する。日本でも普及していないと、10年後ぐらいに困るんだ」と言うのです。正直、最初は、何の話か分かりませんでした。後で分かるのですが、スマートグリッドは、オバマ政権の「グリーン・ニューディール」が掲げたIT政策の、3本柱の1つでした。

「体と相談しながらでいいんだけど、名誉会長として残って、スマートグリッドの推進を日本でやってくれないか」というので引き受けました。経産省を含む官庁、財界、学界といった各方面に、名誉会長就任のあいさつに行きました。

スマートグリッドの推進をやります」と申し上げると皆さんキョトンとしていましたが、さすが経産省さんは優秀で、3カ月もしないうちに「これは日本も後れを取ってはならない」という話になりました。


――「スマートグリッドの普及」という使命を帯びて、グーグルに残ったと。


1年のつもりで残り、経済産業省さんとご一緒に、各方面と丁々発止やり合ったわけですよ。

電事連は、「もう日本の送電網の系統はスマートグリッドになっている」と主張し、経産省は、「確かに発電所からの系統は上手にコントロールできている。しかし変電所から配電所、さらにその先のあたりはできていない」と主張し、妥協点に到達するのに1年かかりました。

配電所の先というのは、「コミュニティグリッド」です。海外勢の動きを見ていた住宅産業や家電業界の人たちも、すぐ追いかけなければこの「スマート化」の流れに後れを取るという意見でした。だから経産省は、「コミュニティグリッドのスマート化は日本でもやらないといけない」と電事連を説得しました。

こうして、「コミュニティ」という言葉を入れた日本式のスマートグリッド化がスタートし、経産省が、NEDO新エネルギー・産業技術総合開発機構)に事務局を置く「スマートコミュニティ・アライアンス(JSCA)」を立ち上げました。

2010年4月の設立総会は、約300社が来場して大盛況でした。その時に取り上げた最初のテーマが、やはり「スマートハウス」でしたね。

志に共感し、エナリスの社外取締役

――エネルギー会社エナリスで社長を務めることになった経緯もお聞きしていいでしょうか。

アライアンス設立後も、経産省スマートメーター制度検討会の委員などを続けていたし、辻野氏の次の有馬誠氏に引き継ぐためにも、グーグル勤めを続けました。

体力も十分ではないのに延長し、京都に買った家でゆっくり過ごすこともできない……妻も不満だったでしょう。丸2年やって、ようやくグーグル名誉会長を退任させていただきました。

ところが、このタイミングで3.11(東日本大震災)が起こるのです。間もなく、経産省から「(原発事故の影響で)電力需給がひっ迫している」と電話がかかってきました。スマートグリッドを推奨していた私に、何か策がないかと問われたわけです。

2011年の夏は、もう「伝家の宝刀」で乗り切るしかない状況でした。つまり、消費電力を15パーセントカットしていない企業にペナルティーを科す方法です。私が聞かれたのは、その翌年の夏に向けて、他にどんな方法があるのか、ということです。

早速、米国の知り合いに連絡を取り、デマンドレスポンス(供給側だけでなく需要家側も需給調整に協力してピークカットやピークシフトを図る手法)や、ネガワット買い取り(節電要請に応えた需要家の節電分を「ネガワット発電」とみなして電力会社が対価を支払う仕組み)の詳細を調べました。

彼らには、ロッキーマウンテン研究所のエイモリー・ロビンス先生なども紹介してもらいました。分かったことは資料にまとめて、経産省に送りました。4月頃には、ITがご専門の村井純先生や、行政政策がご専門の國領二郎先生(いずれも慶應大学)と共に経産省に呼ばれ、説明もしました。

そして、次の夏場はデマンドレスポンスとネガワット取引で乗り切ると決めた国が、「この会社は、それができる仕組みを持っていると言っている」ということで、エナリスを探し出したのです。

この時、私は初めて池田氏(エナリス創業者の池田元英氏)に会いました。電力システム改革に貢献したいという志を同じくする者として、後に、エナリスの社外取締役も引き受けさせていただきました。池田氏は、今や、損失補てん金を取り立てている相手です。

もとは同志でしたから、正直、心中複雑です。2014年秋にエナリスのいわゆる「不適切な会計処理」が発覚して彼が引責辞任し、当時、社外取締役だった私が、代表取締役を2014年の暮れも押し迫って引き受け、今もやっているというわけです。

FIT(固定価格買取制度)がらみの電源開発で勇み足があったものの、エナリスの本業である電力システム改革を支えるシステムの価値は損なわれていません。ですから、第三者委員会の再発防止に向けての提案を受け、第三者委員会の先生方に経営監視委員会として残っていただき、そのご指導を受けながら、再建を進めているところです。

スマートグリッドがIoTに先鞭をつける

震災後の電力不足の中で、スマートグリッドの仕組みが普及し始めたのですね。

そうです。デマンドレスポンスとネガワット取引は、スマートグリッドがもたらす仕組みだし、従来の電力系統のピークカット、ピークシフトにも貢献します。だから、震災後の東京電力(以下、東電)や関西電力(以下、関電)にも導入されました。

当時は本当に需給がひっ迫していて、大停電になるかどうか、という危機でした。だから、電力会社と企業との間にある需給調整契約を根拠に、とにかくデマンドレスポンスとネガワット取引を入れ、節電分を買い上げるということで、動き始めたわけです。

震災を機に、スマートグリッドの日本での受容状況が大きく変わったことは間違いありません。今後、電力システム改革に伴う、新しい安定供給体制の構築や、限りなく平たんに近い需要曲線の実現、その先のIoT(Internet of Things=「物のインターネット)」時代の中で、さらに重要になっていくでしょう。

というか、スマートグリッドが、IoTに先鞭(せんべん)をつけるのです。つまり、まず電気機器がスマートグリッド化した電力網につながり、自然にインターネットにつながっていく。そして、他のもろもろの物がインターネットにつながっていく先駆けとなるということです。

冒頭で「スマートグリッドは、オバマ政権の『グリーン・ニューディール』が掲げたIT政策の、3本柱の1つ」と申し上げました。グリッド=電力系統という、いわゆる強電に分類されるべきスマートグリッドが、いわゆる弱電であるIT部門に分類されていた理由が、ここにきて初めて理解できるのです。

エリック・シュミットが「日本でも普及していないと、10年後ぐらいに困るんだ」と言ったわけも、グーグルがネスト社を買収した意味も、これでよく分かるということですね。